マドリッドには、たくさんの物乞いがいます。
ボロボロの服を着た、「いかにも」という人ばっかりではなく、ごく普通っぽい人もたくさんいます。
大体は外国人。
今日会った物乞いは、アメリカの自己啓発トレーナーみたいな人でした。
ラッシュ前の、まだすいている地下鉄の中、赤道ギネアから来た黒人の男性が演説します。
「僕たちは家賃滞納で家を追い出される事になった。
でも、心優しい上司が、滞納分を払ってくれたんだ。
なんていい上司だろう!」
えっ?っと上司が滞納金を払ってくれたという、珍しい出来事と、それを褒めた言葉が私達の気を引きました。
(スペイン人は感情がすぐ顔に出るからわかりやすい。)
赤道ギネア出身の物乞いさんは続けます。
「今、その上司のところに働きにいくところだ。
来月分の家賃と食費をなんとか練りださなくてはならない。
給料だけじゃ、2人の子供と奥さんを養っていけないんだ。
だから、今、援助してもらえないかと、みんなにお願いしている。
給料だけでやっていけないとはいえ、もちろん、僕を雇ってくれている上司にはとっても感謝している。」
そうか、そうか、と私達はますます聞き入ります。
赤道ギネアさんは続けます。
「僕には夢があった。
スペインに来ることだった。
その夢はかなった。」
「次の夢は、家庭を持つことだった。
素敵な女性と結婚して、2人の子供ができた。
その夢もかなった。」
スペインに来ることが夢と言われて、車内にいたスペイン人は嬉しそうにうなずていた。
「ここで、挫折なんかしてられない。
これからも僕は頑張るんだ。」
いかに自分が不幸かと語る物乞いがほとんどの中、この物乞いさんはポジティブな言葉を連発。
斬新でした。
いつもは、物乞いがしゃべると、シレっとした雰囲気が流れるのに、今日はみんなが聞き入っています。
そして、たくさんの人がお金をあげていました。
多分、他の物乞いの3倍の人がお金をあげていたでしょう。
彼が言っている事が本当かどうかはわかりません。
でも、結局そんな事はどうでもよくて、彼のパフォーマンスに思わずお金を出したくなったという感じでした。
私自身もそんな気持ちになりました。
人は、ポジティブな言葉を聞きたくなるものなんだ、と改めて実感。
そんな心理をねらった物乞いさんは頭が良い。
綺麗なスペイン語を話してたし、歩き方とか、ジェスチャーも人を引き付けるものでした。
これってお師匠がいて、教えてもらったんだろうなと、思わずにはいられません。
物乞いスクールみたいなものが存在するのかもしれません。
世の中には、私たちが想像もしないようなビジネスが存在してるんだろうな、とふと、思いました。
まだまだ、たくさん、いろいろなビジネスを考える余地があるんだな、既成のものにとらわれず柔軟な考えを持たなきゃね、と連想ゲーム的に考えされてくれた朝でした。
ゴンサレス靖子